花嫁打掛

ツヤツヤの正絹生地たっぷりで作られた打掛(うちかけ)は、美しい花嫁に纏われ、眩しいほどのライトのなかで輝きまくる。その一瞬のために存在している。 裾をずるずると引き摺られて着用されるのが当たり前の衣装に生まれて幸せなのだろうか。

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女性用の和服には裾に「袘(ふき)」という部分がある。裏地が表地より長く作られ、外からわずかに見えるように仕立てられる。打掛では裾を引き摺ることが前提なので、この部分を大きく作り、裾に綿を入れて膨らませている。裾まわりに厚みを持たせることにより、裾が脚にまとわりつくことがなく、重厚感も出すことができるのだ。

テレビなどで「大奥」の女性たちが着ている打掛も裾に綿が入っているが、花嫁打掛よりも軽い感じだ。いずれにせよ、床をずるずると引き摺られることが前提だなんて、なんとも残酷な発想だと思ってしまう。

裏地に使われる生地も原則として絹であり、意外と薄い生地なので、引きずられるとひとたまりもない。ほとんど使われることのない花嫁衣装でさえ、裾が黒ずみ、擦り切れている中古衣装が多い。

想像だが、大奥で使われていた打掛はすぐにボロボロになったであろう。ちなみに身分の高い女性は、仕立て上がった打掛などは1-2回しか袖を通すことはなく、下の身分の者へ下げていたのだという。何代かお下がりしてくるころには「ふき」の傷みは半端なく、そこだけ生地を取り換えて修繕していたらしい。当時はすぐに捨てることはなく、修繕を繰り返してとことん使い込んでいたはずで、着物は長生きできたことになる。